StormRainオープニング
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以前冬コミでガイドブックの一部で入れようとしたものの、諸事情によりお蔵入りとなったオープニング部分です。
撃って壊してばかりのゲームと思われるのもどうかと思うので、
世界観の説明も兼ねて公開したいと思います。
その街は、至る所に廃棄車両が散乱し、雑居ビルの壁も薄汚れていた。
空は鼠色に霞み、時折強い風が吹き付けて塵を巻き上げていた。
人通りはまあまあ多く、皆くたびれた軍服やジャケットを羽織り、疲れているようだったが、どことなく楽しそうにも見えた。
その中に一人、紛れている少女が、人を探しながら歩いていた。
「チドリー。おーいチドリー。」
少女はショートカットの髪に暗視ゴーグルを乗せ、青いチョッキにショートパンツを履いていた。
年若いが、どことなく凛とした表情をしたその少女は、チドリと呼ばれている男を探し、屋台が並ぶ通りの方へ歩いて行った。
少女が通りに出ると、沢山の人々が野外のテーブルとイスに座り、ラーメンをすすっていた。
うらぶれた男の姿が多いが、地味な服を着た女も何人か座っていて、すれ違いざまに少女の方を見て、すぐに隣の客との会話に戻った。
少女は客の中から緑のコートを着たサングラスの男を見つけ出した。
「チドリ、ここに居たの。」
そう呼ばれた男は、味噌バターラーメンのチャーシューを食べながら、少女の方を見た。
「何だ。今日は休みの筈だろ?」
「急ぎの仕事が入ったのよ。通信機の電源位点けときなさいよ。」
「休みの日までガーガーピーピー言われたくないんだよ。頭が痛くなってくる。」
「もう。よくそれで電子忍術使いなんて言われてるわね。」
少女はそう言うと、チドリの隣に座り、店員に声を掛けた。
「おじちゃん、醤油ラーメン一つ。」
「あいよ。」
「急ぎじゃなかったのかよ。」
「朝から起こされて、まだご飯食べてないの。」
「朝食からラーメンかよ。胃がもたれるぞ。」
「随分時間経ってるし、大丈夫よ。」
二人がテーブルに並んでいると、通りの向こうから、声が聞こえてきた。
「おーーーーい!!!」
「あ、サイハだ。」
そう呼ばれた男は、小太りで頭にはシャッポを被り、拳銃を握っていた。
「大変だ!量子悪魔が攻撃してくるぞ!」
その声を聞くと、通りの人々の視線が一斉にサイハに集まった。
「本当か?」
「量子悪魔だって…」
「この間攻めてきたばかりなのに…」
程なくして遠くからの小さな爆発音の後、何かが飛んで来て通りのビルに当たった。
と同時に爆発が起き、ビルの窓ガラスが一斉に割れ、通りに降り注いだ。
「うわっ!!」
悲鳴が上がる中、チドリとカオリは目にも止まらぬ素早さでテーブルの下に潜った。
その直後、テーブルの上に無数のガラス片が散らばった。
「取り敢えず、ピンを打ってみるわね。」
「ああ。でもそんなに多い数じゃないだろう。」
「何でそう言えるの?」
「戦車砲だ。ミサイルじゃない。航空支援が無いってことは敵は少数だ。」
チドリはそう言うと、自分の蛇腹のケーブルが付いたクリーム色のPCデッキに電源を入れ、画面が付くのを待った。
カオリも背負った無線機器を起動し、アクティブスキャンを行った。
小気味よい金属音が鳴り響き、敵の位置が赤いランプで示された。
「カオリ、大丈夫か?」
「なるべくなら、そっちを先に言って欲しいんだけど…」
カオリは少し微笑みながら、テーブルから出て周りを確認した。
ガラスによる被害は僅かだったようで、人々は一斉に逃げ出して行く。
ラーメン屋の店員やジャケットを着た男や女等が走って来る中、チドリとカオリは逃げる人々をかき分けて逆方向に走って行った。
その中で一人、ジャケットの男がチドリを見付けると、近づいて行った。
「おい、あんた!」
「何だ!」
「電子忍術使いだね!新しい脆弱性、受け取ってくれ!」
「判った!代金は後で払う!」
「オーケイ!頑張ってくれよ!」
男が人込みに紛れて去っていくと、チドリとカオリ、サイハに銃を持って迷彩柄の軍服を着た男が数人残っていた。
サイハは廃棄された車両に隠れると、チドリとカオリも同じ車両に身を隠した。
「チドリ、業者から脆弱性を貰ったのか?」
「ああ。重要度は高だ。これなら敵戦車の火器管制システムに侵入して、ルート権限を奪取出来る。」
「俺にはその辺りのことはよく判らんが、とにかく俺が注意を引き付けるから、その間に侵入してくれ。頼むぞ。」
とサイハ。
「皆行くぞ!!」
サイハがそう叫ぶと、うらぶれた軍服を着た男達が一斉に射撃を始めた。
火線が伸びて行き、闇へと消えていく。
程なくして、消えて行った方向から銃弾が嵐の様に降り注いだ。
「5,6,7…全部で9人。後ろに戦車2台ね。」
カオリがゴーグルを下げながらチドリに伝えた。
「オーライ。後15m近づいたら侵入を開始する。」
そう言うとチドリは廃棄車両の間を縫い、銃弾の飛び交う中左に回り込みながら前進していった。
「なあ、あんた!」
銃弾の嵐に頭を抑えられながら、軍服を着た男がサイハに話しかけた。
「何だ!」
「侵入ってのは、近づかないと出来ないものなのかい!」
「俺にも詳しいことは判らんが、広域ネットワークは量子悪魔が抑えてるんだってよ!無線と視野照合で直接ローカルネットワーク接続してるんだと!」
「要するに、目で見る必要があるってことか!何でもいい、とにかく撃ちまくれ!」
サイハと男達は、銃弾の隙間を縫って飛んで来る方に弾を送り返した。
敵がサイハの方に前進してくると、左側からチドリがPCを起動し、最も近い量子悪魔にポートスキャンを掛けた。
PCデッキの中央演算装置が唸り、量子悪魔が使っているサービスの一覧がチドリの視界に投影される。
4種類のサービスが映し出され、その中で2種類のサービスに、既知の脆弱性が発見されていた。
「よし、接続する。」
チドリはそう言うと、脆弱性のあるサービスの使っているポート番号を選択し、侵入を試みた。
量子悪魔の電脳は防壁によって守られ、未知のアクセスには脳を焼き切る電気信号を送り返すが、使用しているサービスの使っているポートでの通信には反応しない。
その隙間を縫って、量子悪魔が人間を操る為に使用している魔界ライブラリのコードを逆利用し、量子悪魔の行動パターンを書き換えるのだった。
「…よし、侵入成功。」
それと同時に、一人の量子悪魔が部隊の方にくるりと向き直り、手に持ったSMGを乱射した。
部隊の動きが止まり、程なくして乱射している量子悪魔に銃弾の雨が降り注いだ。
「よし、チドリがやったぞ!皆、前進だ!」
サイハがそう叫ぶと、散乱している廃棄車両に身を隠しながら、男達が前進していった。
その間にもチドリは、また新しく侵入する相手を探していた。
「歩兵はこれで良し、後は戦車の方か。」
そう言うとチドリは戦車にポートスキャンを掛けた。
スキャン画面が表示され、5つのサービスが検出された。
その中で、脆弱性を知っていたのは1つだけだった。
「…危ねえ。さっき脆弱性を貰ってなきゃどうなったか…」
そう言うとチドリは、書き込む魔界ライブラリを軽量な物に切り替えた。
歩兵相手なら柔軟に敵を探して攻撃するTargetNearが良いが、戦車はそれよりも転送速度が速いTargetTankで確実に味方戦車を攻撃させることで、部隊全体の足止めを計ったのだった。
サイハ達のマズルフラッシュが敵に近づいて行くにつれ、部隊の火線が乱れていくのが判った。
チドリに侵入された戦車は並走している同部隊の戦車に横から戦車砲をぶっ放し、攻撃を受けた戦車もそれに応じてほぼ0距離からの撃ち合いになった。
どちらもARMORのサービスをインストールしている為、貫通はせずに装甲を削りあっていたが、暫くした後にチドリが侵入した方が、自分が錯乱していたことに気付き、戦場から逃げ出し始めた。
侵入していない方も追いかけるように離脱して行き、残った歩兵達も散り散りになっていった。
「戦車2台、中破。離脱確認。歩兵、4体撃破。5体離脱確認。」
カオリがゴーグルの摘みを回しながら宣言を行った。
「やったぞ!俺たちの勝ちだ!」
軍服の男が叫ぶと、皆が喜びに沸いた。
「さすがチドリ。電子忍術使いの面目躍如だな。」
サイハがそう言うと、チドリはPCの電源を落としながらサイハの方へ歩いて来た。
「お前も良い指揮してたぜ。」
「2人とも、ご苦労様。」
軍服の男達や、様子を見ていた市民の喜ぶ姿を後目に、3人は元居た通りへと向かった。
「で、カオリ。今日の仕事ってのは、今の奴だったのか?」
「多分、そうじゃない?」
「取り敢えず、ギルド本部に連絡入れておかないと。」
と、サイハは通信機を取り出して交信を始めた。
「あー宜しく。まあ適当に苦労しましたってことで。」
「全く、やる時以外は本当に何もやらないのね。」
「それより、さっきの味噌バターラーメンまだ食い終わってなかったんだが。」
「あ、あたしもまだ醤油ラーメン食べてないわ。」
「この状態でラーメン屋が空くと思うかね。
取り敢えず、ギルド支部に来いだってさ。」
サイハが通信を終えると、3人は騒ぎの落ち着いた通りに出た。
「あーもう面倒くさい。」
「しょうがないでしょ、仕事なんだから。」
通りは相変わらず廃棄車両や壊された自販機等が散乱し、時折突風が吹き付けていた。
3人はまだ自らの運命について知る由もなく、アルバイト募集のビラだけが風に舞っていた。
ゲーム本編へ続く…